グローバルダイニングの判決について飲食弁護士が解説
グローバルダイニングの判決について
ラ・ボエムなどを展開する飲食チェーン、グローバルダイニングが、去年3月に東京都から受けた特措法に基づく時短命令が違法だとして東京都に賠償を求めた裁判で、2022年5月16日、東京地裁は請求を棄却する判決を出しました。ただし、「都が出した時短命令は違法」との判断も示しています。
裁判での争点
争点としては大きく分けて以下の3つでした。
①時短命令に違法か
②都知事に過失があったか
③特措法の規制自体(または本件時短命令)が違憲か
①時短命令に違法か
まず、①については、
(1)当時、他の飲食店にも命令が出ていたし、原告への報復や見せしめ的な目的はなかった
(2)営業を継続する正当な理由に経済的理由は該当せず、原告に正当な理由はなかった
とした一方で、特措法に基づく命令が、法律上「特に必要があると認めるとき」にのみ発出できるとされている点について、過料という制裁がある以上、運用は慎重なものでなければならず、命令を発出するには、時短要請に応じないことに加え、不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があることを要する、と判断しました。
その上で、
(1)原告は感染防止対策を実施していた
(2)当時、原告以外にも2000店余りの店が営業を継続している中で、上場企業であるとはいえ、そのうちの1%に過ぎない原告の店舗において、感染防止対策の実情や、クラスター発生の危険の程度等の個別の事情の有無を確認することなく、原告が感染リスクを高めていた根拠はない
(3)命令発出の時点で、命令の効力は4日間に限られており、かつ、当時はすでに新規感染者は大幅に減っていたし、実際、統計的にこの4日間の命令で抑止しえた新規感染はわずかだった
(4)原告は時短命令に応じない旨の発信を継続していたが、その内容は、応じると事業や雇用の維持ができないので営業を継続するという代表者の意見を表明しただけで、扇動したり協調を呼びかけていないし、実際にそれに触発された飲食店も存在しないこのような事情の下で、あえて4日間しかない命令をあえて発出したことの必要性について合理的な説明がなく、命令する場合の判断の考え方や基準についても合理的な説明がされていないから、不利益処分を課してもやむを得ないといえる程度の個別の事情があったとは認められず、本件命令は違法と判断しました。
②都知事に過失があったか
次に②について、
(1)命令自体が違法というわけではなく、個別の事情があったとは認められないという違法性判断であることを考慮すると、都知事の裁量の範囲を著し逸脱したとまではいい難い。
(2)対策審議会からの意見聴取は、こぞって命令の必要性を認めるものだった一方で、原告代表者は、コロナのような弱毒性のウイルスを完全に封じ込めるのは不可能だと主張していて、被告の立場とは相いれないものであったという状況で、本件命令は最初の事例であり、該当性判断のために参照すべき先例がなかったから、都知事が意見聴取の結果よりも原告代表者の考え方を優先して本件命令の発出を差し控える判断をすることは期待できなかった
(3)行政処分の違法性が認められても、違法であることを予見できない事情がある場合、国家賠償法上の過失がないされた判例がある
以上からして、都知事には過失がなかったと判断しました。
③特措法の規制自体(または本件時短命令)が違憲か
最後に③について、
(1)時短命令等は法律の目的に照らして不合理な手段ではないから、営業の自由を侵害するとはいえず、法令違憲は認められない
(2)都知事が、原告が実施していた感染防止対策の検討を怠ったとしても、立入検査等を行う義務を負うわけではないことなどから、営業の自由の点で適用違憲は認められない
(3)①都知事が原告代表者の意見表明を問題視した点は、本件命令の命令書に付記された理由の一部であり、考え方に対する批判や攻撃を目的とするものではなく、
また、②対策審議会の委員から、時短要請の応じている飲食店との不公平を生じさせるとの意見がでたこと、他の飲食店の顧客が原告に流れ込んでいる旨の報道もみられたことから、他の飲食店が営業を継続する可能性が全くなかったとまでは言い難いことからして、当該理由がおよそ根拠を欠くものとはいえず、
さらに、③報復や見せしめなど違法な目的があったとは認められないから、表現の自由の点で適用違憲は認められない以上から、違憲とはいえないと判断しました。
飲食弁護士による判決の解説まとめ
原告は即日控訴しており、この判決は確定していないため、断定は難しいですが、少なくとも、裁判所が、命令を発出するには、要請を無視するだけでなく、「個別の事情」が必要とした点や、命令を発出する判断基準について合理的な説明を求めた点で、かなりインパクトがあります。
現状、自治体は要請を無視している飲食店に対して、片っ端から命令をかけていますから、後で説明を求められても回答できないはずです。(「通報があった」くらいだと思います)
請求棄却とはいえ、自治体が違法な命令を出すわけにいきませんから、自治体に萎縮効果を生むと思われます。
他方で、飲食店側ですが、この1年の間に協力金のルールも売り上げ比例で固定化されており、協力金でペイするなら営業しないし、そうでなければ過料を覚悟してでも営業する、という形で二分化しています。
1~2年前のように、協力金もないが社会的批判もある中で、「命令に応じるべきか」と飲食店が頭を悩ませていた時代とは違いますので、少なくとも私の周りの飲食店を見ている中では、飲食店側に与える影響はほとんどないと思います。
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