飲食店出店時の賃貸借契約の注意点について弁護士が解説
飲食店を開店するにあたって、一番最初に出てくる契約が、物件の賃貸借契約書です。
この記事では、飲食店の賃貸借契約について、絶対に抑えておきたいポイントを解説します。
賃貸借契約というと、ほとんどの場合、契約書の1ページ目、面積や間取りと共に、初期費用、家賃、契約期間、更新料あたりしか見ないことがほとんどです。ただ、当然ですが、契約書の本体はそのあと何ページも続いていきます。その中には、肝心な契約後を左右する重要な条項が多く記載されています。少なくとも次の点については、必ず確認するようにしましょう。
定期借家か普通借家か
最も重要なのは、いわゆる定期賃貸借契約か普通賃貸借契約かです。どうせ契約期間は決まっているのだから同じだろうと思いがちですが、この2つは全く違います。
定期賃貸借契約は、決められた期間(5年なら5年)が終了すれば、絶対に契約は終わります。そのあと、再契約はできますが、再契約するかどうかは大家次第ですので、「なんとなく嫌だ」ということで再契約されなければ、退去しなければなりません。やっと固定客が付いて、営業も調子が出てきた段階で期間が満了し、「家賃を上げてくれれば再契約する。嫌なら出て行ってくれ。」ということもあり得ます。
他方で、普通賃貸借契約も期間は定められており、更新する場合は更新料の定めなどがありますが、普通賃貸借契約の場合、借地借家法で借主が非常に強く保護されており、正当な理由がなければ大家は更新を拒否できません。正当な理由というのは、賃料不払いや建物の老朽化など、よほどの事情がなければ認められませんから、大家が更新する気がなくても、家賃だけ払っていれば事実上借り続けることができるのです。
この2つは、原則と例外が逆転していますから、今回の契約がどちらに当たるのか、必ず確認するようにしましょう。なお、定期借家契約、普通借家契約という名称が使われることもありますが、同じものです。
※定期借家については「定期賃貸借契約の注意点」参照
使用の目的
賃貸借契約で以外と見落としがちなのが、使用の目的です。普通は、軽飲食か重飲食かだけ前提として、契約書上は「喫茶店」とか「飲食店」というような包括的な記載が多いと思います。しかし、中には、「イタリアン」「居酒屋」といった業種まで特定されていることがあります。
飲食店は、業態の変更などが珍しくありません。「喫茶店をやっていたが、食事や酒を出してダイニングバーにしたい」、「バーをやっていたがカラオケもできるようにしたい」といった営業上の理由で業態変更したい場合も、契約で限定されていれば、その都度その都度、大家の承諾が必要になります。実際に、「飲食店(ただし、お酒をメインとするものを除く。)」という使用目的だった契約で、お酒を巡ってトラブルになったケースもあります。
今後、業態変更も考えられる場合は、使用目的を広くとるようにしましょう。
諸費用の負担
一般に、借主が負担すべきものは、入居初期費用、家賃、共益費、光熱費などの実費とされていますが、商業施設などでは、施設全体のキャンペーンに関して生じる費用や、全体として共通の非接触決済システムの導入にかかる手数料などが発生する場合があります。
また、入居時のいわゆるB工事(躯体と内装の中間領域で、借主が費用を負担して大家指定業者が施工する箇所)については、通常、想定してるよりも過大な費用になることが多く、創業時に思わぬ出費を強いられる可能性があります。
契約時には、必ず、借主がどれだけの費用を負担する可能性があるのか、細かく確認するようにしましょう。
指定業者
飲食店の営業には大きな工事がつきものです。入居時の内外装工事、営業開始後の改修工事、閉店時の原状回復工事など、様々な工事がありますが、これらの工事について、大家の指定業者による施工が義務付けられている場合があります。特に原状回復工事については、大家の指定業者となる場合が多く、想定していたよりも多額の退去費用を求められることも少なくありません。どの工事が指定業者制なのか必ず確認するようにしましょう。
その他、ごみの収集、清掃業者、害虫駆除業者などの指定がある場合もあります。
原状回復義務の範囲
飲食店も事業である以上、様々な事情でやむなく閉店する場合がありますが、そんなときに、原状回復の範囲で紛争化する場合があります。
特に、最近では、居抜きでの入居が非常に増えてきましたから、そもそも回復すべき原状(元々の状態)が何かという話になります。居抜きで入居した場合、居抜きで入った時の状態が原状ということになりますが、通常は、居抜きで入ってもスケルトン返しとなっている契約がほとんどです。その場合、居抜きで入っても、全て解体しなければなりませんし、前借主が躯体の工事などもしていると、その部分も含めて原状回復を求められる場合もあります。実際に扱ったケースでも、原状回復として、1階と2階をつなげる階段を撤去する義務が課されていた契約がありました。
他方で、居抜きの状態に戻す内容だったとしても、居抜きの状態をしっかりと記録しておかないといけません。細かいクロスの素材や、仕切りの位置、洗面所の仕様、照明の種類など細かく原状に戻すように求められる場合があります。居抜き状態に復する場合は、居抜きの状態を写真に残しておくなど、原状回復工事がしやすいように記録しておきましょう。
※居抜きについては「居抜きの注意点」参照
顧問弁護士のメリット
以上、賃貸借契約で注意すべきポイントを解説してきました。
これらは、いずれも、契約段階で簡単に確認することができるものばかりです。もちろん、大家がこれらの点を変更してくれるとは限りませんが、リスクを事前に知っておくことで、出店戦略や収益構造をしっかりと検討することができます。
ポイントを押さえればある程度定型的に見ることができますが、飲食業界に特化した弁護士であれば、業種・業態、ビジネスモデル、大家との関係性など、様々な観点から検討を加えることができます。不安な方は、お気軽にご相談ください。