飲食弁護士が解説 助成金や補助金の不正受給・詐欺をしてしまった際にすべきこと
2020年の春から始まったコロナ禍ですが、
それと合わせて、雇用調整助成金の特例措置が設けられました。
申請に必要な資料などが大幅に簡略化されたことから、助成金・補助金の不正受給も多発しており、
厚生労働省によれば、特例措置導入以降、2020年9月末までに確認された助成金・補助金の不正受給は、全国で920件、135億8800万円に上るとのことです。
厚生労働省は、労働局や捜査機関と協力して、不正受給の監査に力を入れており、
以下のように、直近でも摘発が続いています。
・コロナ雇調金400万円を不正受給疑い 解体業の24歳男を再逮捕(2022年11月16日京都新聞)
2020年8月26日から昨年9月3日までの間、従業員4人を休業させて休業手当を支払ったように装い、17回にわたってうその雇調金を申請し、約400万円を振り込ませてだまし取った疑い
・諫早の飲食業者が3500万円不正受給 コロナ対策の雇用調整助成金など(2022年11月16日長崎新聞)
実際には休業していないにもかかわらず休業したと虚偽の申請をし、2020年4月から2022年1月までの間に、雇調金約2900万円と緊急雇用安定助成金約600万円の計37カ月分を不正に受け取っていた。
・雇用調整助成金など2592万円不正受給 佐賀市の飲食業者が虚偽申請(2022年10月22日佐賀新聞)
2020年9月から2022年7月にかけての申請分で、賃金を実際の額よりも過大に支給したとする虚偽の書類を作成し、雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金の合計2592万9227円を受給していた。
・雇調金など2900万円不正受給 秋田市のラーメン店運営会社(2022年8月20日秋田魁新報)
秋田市のラーメン店を運営していた会社が、従業員に休業手当を支払っていないにもかかわらず、支払ったとする虚偽の申請をし、2020年4月から2022年3月に雇用調整助成金1101万円186円と緊急雇用安定助成金1808万1000円の合計2909万1186円を不正受給していた。
目次
・飲食業でよくある助成金・補助金の不正受給事例
①架空休業
実際には出勤しているにもかかわらず休業したものとしたり、タイムカードを打刻させないように指示して帳簿類を偽造して申請する。
普段の店舗ではなく、グループ店舗で勤務させるなどの事例もある。
②架空雇用
退職した従業員を、現在も雇用しているように扱い、休業させたものとして申請する。
元から存在していない架空の従業員を作り出す悪質な事例もある。
③架空の手当
実際には休業手当を支払っていないにもかかわらず申請する。
④過失
元から労務管理がいい加減な状態で、複雑な申請方法に対応しきれず、実態と異なる申請をしてしまう。
申請担当者と現場でシフトを管理する担当者の連携が取れず、実態が把握しきれていないまま申請してしまう。
雇調金の申請をアドバイスするコンサルタントに任せたところ、社内でも想定していない申請をされてしまう。
・助成金・補助金の不正受給はどのように発覚するか
①従業員からの通報
労使紛争の延長や不正に気付いた従業員が労働局に通報することにより発覚する場合
②労働局の監査
提出資料と申請の内容が明らかに違った場合でも、
コロナ禍の真っただ中では、労働局も見落としてしまい、
後の監査で助成金・補助金の不正受給が発覚する場合
③労働調査
受給額が大きい場合、労働局が積極的に労働調査を行い発覚する場合
労働局から連絡があった場合の対応
まずは事実関係の把握に努めます。
当初から代表者が事情を知っていて行った場合もありますが、
担当者のミスや、意図せずコンサルタントが申請してしまう場合もあります。
故意と過失では労働局の対応が全く変わりますので、まずは事実関係を調査し、
弁護士名義で報告書などをまとめ、労働局に提出します。
労働局からのヒアリングにも弁護士が立ち会い、事情を説明し、誠意をもって対応します。
過失であることや、故意的であっても、事情を説明し、自主返納すれば、返還の金額を交渉したり、分割での返還も協議できます。
また、刑事事件化までは避けられるケースがほとんどです。
・放置すると起こること
受給した助成金の全額に、助成金・補助金を不正受給した助成金の額の2割に相当する額及び延滞金(不正受給の日の翌日から納付の日まで年3分)の合計額を返還しなければなりません。
また、悪質なケースは刑事事件化もされます。
雇用調整助成金は金額が多額ですから、逮捕から勾留を経て、詐欺罪で正式裁判になる可能性が高いといえます。
弁済できない場合、実刑も十分あり得ます。
・心配な飲食業経営者は何をすべきか?
まずは、実態を調査し、すぐに弁護士に相談してください。
「ばれないかもしれない」「なんとかなるはず」「指摘されてから対応すればいい」
このような論調が見られますが、いずれも大きな誤りです。
助成金・補助金の不正受給があることが発覚した場合、すぐに専門家に相談しましょう。