突然、家賃を値上げすると言われました。【賃上げ交渉】

郊外で居酒屋を営んでいます。

家主とご縁があり、ご好意で周辺の相場よりも安い賃料で借りています。時々、家主も店に来てくださり、良好な関係を築いていました。

 

しかし、高齢の家主が体調を崩されて入院されたことを機に、家主の代理人として息子さんがやってきて、突然、家賃を値上げしたいと一方的な条件を提示されました。

 

支払えない金額ではありませんが、釈然としません。

値上げが納得できない場合は、立退くしかないでしょうか。

(店主 50代 男性)

 

契約の内容によって対応が変わる

家主やビルオーナーなどの店舗貸主からの賃上げ交渉。飲食店では避けて通れないと思います。賃上げに応じなければ退去してもらうといった形で、強硬な手段を執ってくる貸主もいます。ビルで居酒屋を営んでいて、オーナーから突然、家賃を値上げしたいと一方的な条件を提示された場合、どのように対応すればよいでしょうか。契約の内容によって、対応の方法が変わってきます。

 

普通の賃貸借契約では賃上げに合意が必要

まず、普通の賃貸借契約の場合、契約はすでに成立しています。貸主が一方的に賃上げを求めることはできず、双方の合意が必要です。日本の法律では、不動産の借主は非常に強く保護されていますので、賃上げに応じなかったからといって、すぐに立ち退かなければならないということにはなりません。それでも貸主が、どうしても賃料を上げたいということであれば、賃料増額の調停や訴訟を起こすことになります。しかし時間的にも費用的にもコストがかかる上、実際の家賃相場とかなり離れていないと、簡単には増額は認められません。ですから、理不尽な賃上げを飲む必要はありません

大規模な店舗ですと、物価に合わせて自動的に賃料が増減する特約が締結されている場合があります。その場合は、その特約に従って賃料が上がることがありますが、逆に下がることもありますので、フェアといえばフェアといえます。

賃料の増額はどのような基準で判断するか

よくあるのは、近隣の同等店舗の賃料相場を増額の根拠とする方法です。例えば、「この店舗から100メートル範囲の30坪の路面だと坪●万円くらいですよ」という言い方がよくなされます。これを何店舗か示されると、確かにそうかと思いやすいのですが、法的にはそう単純ではありません。大前提として、全く同じ物件はないということです。設備や築年数、人通りなど、たくさんの複合的な要素が絡み合って賃料は定められます。大家との人的関係がある場合もあります。あくまで周辺にはそのような事例があるというだけで、それにとらわれる必要はありません。
また、一般的に、貸主から増額の根拠として提示される周辺賃料は、あくまでその時点から新しく借りる場合の賃料です。現行賃料は、貸主と借主の間で合意して決められたものですから、これを簡単に覆すことはできません。それができれば、毎月毎月「新しくこういう物件が周りにあるから増額しましょう」となりかねず、約束した意味がなくなってしまうためです。
店舗の相当な賃料を出すためには、複数の要素を加味し、多方面からの検討を行う必要があり、一般的には不動産鑑定士の業務になります。貸主が賃料増額に固執してきた場合、店舗側としては、しっかりと鑑定士の鑑定結果に基づいて、賃料増額の請求を行ってもらうようにしましょう。

裁判になった場合

話し合いで解決できず、貸主がどうしても現在の賃料を増額したいと考えた場合は、裁判を起こすことになります。法律上、訴訟の前に調停を起こす必要がありますので、まずは調停が行われますが、調停はあくまで和解を勧める手続きですので、裁判所が何らかの解決案を提示してきたとしても応じる必要はありません。もっと言えば、調停で話すつもりはないから出席自体しない、ということも可能です。調停が不成立で終わると、今度は訴訟を起こすことになります。訴訟は裁判所が最終的に判決を出しますから、しっかりと反論しなければなりません。
裁判の中でそのような主張立証を行うかはケースバイケースです。一般的には、お互いに不動産鑑定士に鑑定を依頼しますが、通常は、自分に有利な鑑定結果を提出し、相手の鑑定の問題点を主張しますから、裁判所がさらに鑑定士を選任し、鑑定させることになります。裁判所は、個別の店舗の賃料について知見を持ちませんから、基本的には鑑定士の意見をベースに、どの鑑定士の意見が正しいかを決め、問題点があれば、その間を取って判断することもあります。

定期賃貸借契約にはくれぐれも気をつけて

他方、最近飲食店でよく結ばれることの多い「定期賃貸借契約」の場合は、注意が必要です。定期賃貸借契約の場合、一定期間の経過によって契約が終了します。普通の賃貸借契約は基本的に契約が更新される一方、定期賃貸借契約では期間満了によって契約が終了します。そこから先は、貸主との新しい契約交渉が始まりますので、「賃料を●円上げてくれないと、契約更新はしない」と言われてしまえば、そこまでということになります。

飲食店の物件では、定期借家契約の利用が非常に増えています。確かに、大家さん側にとってはメリットが大きく、そのため、いい物件が市場に出やすいという面もありますが、反面、借り手にとってはリスクの大きい契約ですので、定期賃貸借契約を締結するときはくれぐれも気をつけてください。

実際の解決事例

⑴ 賃料増額か立ち退きを求められた事例

東京都心の店舗の話です。オーナーチェンジにより、新オーナーから大家の変更通知がありました。そこには、家賃の支払先変更と共に、次回更新時に、賃料を50万から100万に増額するか、退去するように記載されていました。この店舗は普通賃貸借契約を結んでおりましたから、結論的には応じる意思がないことを示せばよかったのですが、新オーナーがしつこく賃料交渉と退去交渉を行ってきたため、間に入ることに。新オーナーが賃料増額の根拠としたのは、よくある近隣の同等店舗の賃料相場です。物件ごとの差異を主張しつつ、店舗側で鑑定士に簡易鑑定を依頼した結果がせいぜい5%の上昇が妥当であったことなどを説明しました。賃料交渉と共に、退去にも絶対に応じないことを説明し続けたところ、最終的には大家が建物自体を転売してしまい、賃料の増額はうやむやになりました。

⑵ 互いに鑑定を行い中間的な数値で和解した事例

関西の店舗で、大家から200万円ほどの賃料を230万円ほどにしたいという通知がありました。割合としては1割程度ですが、現行賃料が高いと、ある程度コストがかかっても賃料を上げたいというインセンティブが働きます。店舗側は拒否しましたが、結局、調停を経て訴訟になり、お互いに鑑定を出し合う状況になりました。最終的には裁判所が独自に不動産鑑定士に鑑定させ、その結果をもって和解となりました。訴訟になると、結局は裁判所の鑑定結果が大きな意味を持ちますので、店舗にとって都合のよい鑑定を取るのとまた別に、客観的な立場で行った場合に予測される鑑定結果についても確認し、どこまで争うべきか、譲歩すべきか、早めに見通しを立てることが肝要だと思われます。

そのような契約になっているのか確認を

現在のご自身の店舗がどのような契約になっているのか、見直してみてください。理不尽な賃上げには応じる必要は飲む必要はありませんが、貸主とのトラブルは好ましいものではありませんね。定期賃貸借契約であっても交渉の余地はありますので、紛争化しそうであれば、一度、専門家へのご相談をお勧めします。

 

賃上げ交渉にお悩みの方は、飲食弁護士の石崎冬貴にご相談ください。

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